即金26
カズミが生まれ育った村は、数年前彼女が二十歳の年に無くなった。いわゆる平成大合併で、隣接する地方都市に飲み込まれたという。出身地が村だと言うのがどことなく恥ずかしかったカズミにとって、故郷が無くなる寂しさよりも、自分の汚点が消えるような感覚が先に立ったようだ。代々農業を営む生家は、曾祖父の代までは随分と羽振りも良かったらしい。立派な蔵は残っているが、カズミの父親が家督を継ぐ今となっては、至って平均的な家庭である。小さな頃から特に不自由することもなく、かといって贅沢をする訳でもない。今でも金銭に執着しないところは、この家庭環境に起因するものだろう。
かなり緊張している様子の彼女は、「私は内気だから」と話す。幼少の頃は活発だったのだが、小学三年生の時に起こったある事件から人と話すことが苦手になったらしい。意中の男子にバレンタインチョコを渡したところ、銀紙が混ざっていたと教室中に言いふらされ、それが原因で皆にからかわれたそうだ。それからは、友人たちと外で遊ぶよりも、図書室で一人本を読むことが増えた。中学高校と部活にも入らず、本を読み映画を見て過ごす日々。そんなカズミにも、高校一年生の時に初めての彼氏が出来る。学校の
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2010/03/14